8月12日
旅の終わり
菅谷不動尊というお寺へゆく為に、始発のバスを待っていた。相変わらずの雨。蒸し暑く息苦しい、湿った空気。野宿の後の気だるい朝。しかし昨日の鬱症状というべき状態は、日の出と共に軽快していった。
菅谷不動とは、僕の親父方の、今は他界してしまった祖母が僕達のために願懸けをしてくれていたお寺なのだ。偶然インターネットでこのお寺の記事を見て、いつか行ってみようと思っていたのだ。バスは降りしきる雨の中を進んでゆく。辺りは一面の田んぼだ。
お寺につき、形だけのお参りをすませ、境内を散歩して歩く。しかし雨がひどく、そそくさと折り返してきた先ほどのバスに乗り駅へ戻ることにした。雨に濡れた体が気持ち悪い。・・・そうだ!ここは新発田だから温泉があるかもしれないな。ちょっとバスの運転手に聞いてみるか・・。
駅前でバスを乗り換えて、朝早くから営業をしているという市営(?)の温泉を目指す。市街地を抜けしばらくゆくと、目指す「あやめの湯」は、雨に煙る田んぼの中にぽつんあった。でもなにやら様子がおかしい。玄関前で清掃をしているおじさんに尋ねると、営業は10時過ぎからだという(爆笑)。営業を始めるまで、離れの休憩室で休んでいていいとおっしゃってくれたが、ここでのんびりしていると東京まで乗り継げなくなってしまうかも・・。いっそのこと、新幹線に乗って帰ろうかな・・・・。いや、ここまでがんばったんだから、密かな僕の目標?青春18切符での往復/旅の予算・交通費込み3万円台は死守する!!(爆笑)。確かに僕はお金持ちの反対だが(笑)ある意味くだらなくも思えるこの目標を掲げていなければ、意志の弱い僕はすぐ楽をしてしまうだろう。一度それを許してしまうと、僕はその後ずるずると鈍行ではなく特急に乗って、無人駅でなくホテルに泊まってしまうかもしれない。帰りはさっさと飛行機で帰るかもしれない。少しお金がかかっても、その方が絶対楽だから。効率的だから。時間を有効に使えるから。しかしそのとき既に、僕のしたかった旅ではなくなっているだろう。皮肉なことに、楽をすればするほど、僕が求めている類の旅の醍醐味は薄れていってしまうのだ。幸か不幸か、僕は気ままな、そして貧乏旅ならではの面白さを知ってしまった。ポイントは“目線”だ。例えば同じ道路でも、普段からそこを歩いている人と自動車に乗っている人では、何かが違うはずだ。もしくは、ロープウェイで山頂に立つ人と、自力で登っていった人・・・登り切った頂上の景色を、後々まで鮮明に覚えていられるのはどちらだろうか。同じ場所に来て、同じ景色を見ていても、旅の仕方によってその感じ方は全く違うはずだ。そこへたどり着くまでに体験する内容も、まるきり違っているはずだ。もちろんどちらが良い、正しいという話ではない。ただ僕がそうしたいだけだ。いろんな意味でロスが多いのは、やっぱり仕方がない。もしそのことで、人から「奇特」だと言われても、逆に「18キッパーごとぎが何を大げさな・・」と言われても、僕はたいして気にしない。
とは思っているものの、現実はなかなか辛い(笑)。
雨が本降りになってきた。天気予報はまったく見ていなかったから、この日熱帯低気圧が新潟に押し寄せていることを知らなかったのだ。傘が無いので頭にタオルをかぶせながら、バスが来るのを待つ。熱いお風呂に入りたいなぁ。・・・やっぱり馬鹿なだけなんだろうか。(笑)
29本目の列車 126D 新発田11:21-新津11:52
乗車時間 31分
新発田駅に戻ると、雨で新津行き列車の出発が遅れていた。
車内のトイレで服を着替え、ウェットティッシュで体を拭いて席に座る。その後は長岡に着くまでほとんど寝っぱなしだった。
30本目の列車 438M 新津11:58-長岡12:51
乗車時間 53分
引き続き爆睡状態。
31本目の列車 1738M 長岡13:43-水上15:45
乗車時間 2時間02分
長岡で乗り継いで、一路東京を目指す。列車は六日町に停車した。実を言うと、また明日ここへ登山をしに来ることになっているのだ・・車で(笑)。しかぁし、こんなひどい雨で大丈夫なのだろうか?やばいな〜(^^;)。ここで降りてしまえば楽なのだろうけれど、今日中に東京に戻らなければならない用事があったりする。登山のための用意もしなければならなかった。どうしても一旦帰らなければならない。なんか、トホホの連続攻撃だ(^_^;)。
32本目の列車 744M 水上15:55-高崎16:56
乗車時間 1時間01分
渋川駅にてアナウンス。
「大雨のため、この先は時速15キロの徐行運転となります」。
ついていないときっていうのは、とことんついていないものだなぁ。実際、電車は自転車並みのスピードでトロトロと走り続けた。大粒の雨がバチバチと音をたてながら窓を濡らす。外は雨雲で夜みたいに真っ暗だ。今の僕には本を読むことも、音楽を聴く事も、何も考える気力がない。ひたすら眠ることにする。もう少しの辛抱だ。
高崎に着いたころ、雨は上がっていた。よく眠って頭も冴えた。すでに感覚的には地元に戻った感じがしていた。
33本目の列車 954M 高崎17:10-大宮18:28
乗車時間 1時間18分
独り旅の帰りには、いつも奇妙な感覚に襲われる。旅をしているときの感覚と、普段の日常感覚が入り交じる瞬間だ。なんとなくやるせない、寂しい気持ちに襲われる。不思議なことに、団体旅行ではこのような気持ちになることは滅多にない。旅から帰ってきた安堵感が込み上げてくる一方で、こんなに疲れているのに、未だ心のどこかで家に戻りたくない感情がくすぶり続けている。仕事のこと、普段の生活でやるべきことが具体的に頭の中をよぎりだす。この列車を降りれば、僕の意識の中では完全に旅が終了する。いくつも乗り継いできた中の、最後の列車だ。すでにこの電車に至っては、新潟方面からの旅行客はほとんど姿を消し、夏とはいえ大きなリュックをしょっている僕はいくぶん浮いた存在となっている。北海道から乗り継いで来た人は乗っているのだろうか。18切符での定番コースを大きくはずしているから、もしかしたら僕だけかもしれないな。みんな、日常の延長でこの電車に乗っているんだ・・。そんなことを考えているうちに、いつのまにか最後の駅が近づいていた。
今回の旅では具体的に何を得たのだろうか?・・・いや、そんなモノなくたっていいじゃん。第一、そんなことがすぐに判るものか。単に放浪癖で現実逃避なだけかもしれない、いつまでこんなことをしているんだ?・・・いや、いつまでだっていいじゃん。自分自身を取り戻す、癒すものだから。わざわざ意味付けすること自体、無意味じゃないか。旅に、北海道へ行きたくなったから行ったんだ。ただそれだけのことじゃん。でもそれって、僕には重要な事、大切なこと。独りだけで、自分のやりたい方法で、思い付くままに、気が向くままに。
またやるよ、たぶん。(^^)
なんてことを考えながらホームを降りて、今回の旅は終了した。
<おわり>